名前のない香水

それから、

二人の間に言葉が交わされることは、なくなった。

一花のいない教室。

彼女の笑い声が響かない放課後。

俺の日常は、

あの日を境に色彩を失ったかのように、静かになった。

それでも——

心は、折れてはいなかった。

登校中も、

部活中も、

ふとした瞬間に、空を見上げる。

この空のどこか遠くで、

一花も同じ空を見上げているはずだ。

苦しい治療に、耐えながら。

「……変わらないよ、一花」

あの日、

初めて名前を呼ばれた時の熱。

彼女を守りたいと誓った、あの衝動。

それらは、

一分一秒も薄れることなく、

俺の中で、呼吸し続けている。

冬の冷たい風が吹き抜ける。

ポケットに、そっと触れる。

そこには、

あの日、夢から受け取った

少し乾いた——黄色の花びら。

春が来るのを。

その花が、再び満開になる日を。

俺はただ、静かに信じていた。