名前のない香水


『私が病気に勝って、本当に元気になったら。』

一行空ける

『あの時、見られなかった景色を一緒に見に行きたい。』

『一面に広がるチューリップの咲く場所で』

『そこで、今度は嘘じゃない「大丈夫」をあなたに言いたい。』

『……だから、それまではもう、連絡もしないでおこう?』

『あなたを感じてしまったら、きっと私、帰りたくなっちゃうから。』

『わがままな一花より。』

それは、

連絡を断つという宣告であり、

同時に——

「必ず生きて戻る」という、彼女の誓いだった。

凰雅は、何度もその文章を読み返した。

寂しい。

今すぐ返信して、引き止めたい。

それでも——

これが彼女の選んだ戦い方なのだと、痛いほど伝わってきた。

「……分かったよ」

小さく、息を吐く。

「待ってるから。お前が勝つのを、ずっと」

返信は、打たなかった。

それが——

彼女への、唯一の答えだと思ったから。