名前のない香水

一花が転院した数日後。

凰雅の元に、
彼女からの短いメールが届いた。

件名はない。

画面には、
彼女がベッドの上で死力を尽くして打ったであろう、
一花らしい言葉が並んでいた。

『凰雅くん、ごめんね。あの日、ちゃんと会えなくて。
名前を呼んでくれて、本当に嬉しかった。』

一拍。

『あの日、私の世界には、
やさしい桃色と、あたたかい光みたいな色の花が咲いたんだよ。』

『でもね、今の私じゃ、あなたに甘えてばかりになっちゃう。』

『あなたの前では、世界で一番可愛い一花でいたいから。』


『だから、』

『わがままを聞いてください』

スマホの画面を見つめる凰雅の指が止まる。

彼女の決意が、文字の間から滲み出していた。

「……わがまま?」

独り言のように呟く。

その先には、

二人の未来を繋ぎ止めるための、
あまりにも切ない提案が記されていた。