名前のない香水

それからの日々は、
驚くほど何も起きなかった。

一花は、いつも通り学校に来て、
夢と話して、授業を受けて、帰っていく。

体調も、見た限りでは安定している。
あの日のことが嘘だったみたいに。

――やっぱり、気のせいだったのか。

桐谷は、そう思おうとした。
けれど。

廊下ですれ違うたび、
教室の端でふと視界に入るたび、
無意識に、視線が向いてしまう。

一花は、気づいていないふりをしている。
桐谷は、気づいてしまったまま。

同じ教室にいて、
同じ時間を過ごしているのに、
見ているものは、少しだけ違った。

視線を逸らす一花と、
逸らせない桐谷。

その距離は、
近づくことも、離れることもなく、
ただ、そこにあった。

何も変わらない。
けれど、元には戻れない。

そんな日々が、
静かに、続いていった。