名前のない香水

立ち尽くす凰雅に、
夢はポケットから小さな包みを取り出して差し出した。

「これ、一花の枕元に落ちてたの。……看護師さんが拾ってくれたんだけど」

包みの中には、

黄色のチューリップの花びらが一枚と、
一花が使っていた小さなリップクリームが
入っていた。

「一花ね、あなたが来る直前まで、鏡を見て一生懸命チークとリップを塗ってたんだよ」

一拍。

「……少しでも、元気な私を見てほしいからって」

夢の言葉に、
凰雅の視界が急激に歪んだ。

自分が「無理すんなよ」と言いかけた、あの数分間。

彼女は命を削るような思いで、
俺のために“女の子”でいようとしてくれたのだ。

「あいつ……バカだよ」

小さく、かすれた声。

「本当に、バカだ」

一花の健気さと、
それを守れなかった不甲斐なさが混ざり合い、

凰雅の頬を、熱いものが伝っていった。