名前のない香水

「これ……さっきお見舞いの方が置いていかれて」

看護師が差し出した花束を見た瞬間、
一花の呼吸が止まった。

視界に飛び込んできたのは、
ピンクと黄色のチューリップ。

まだ蕾のままなのに、
その色だけがやけに優しくて。

「男の子だったかな。背の高い……」

その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が静かに熱くなる。

電話越しに聞いた、
あの優しい声がよみがえる。

一花は、
震える指先でそっと、花びらに触れた。

ひんやりとした温度が、
指先に残る。

「……そっか」

小さく呟いて、
静かに笑う。

桐谷くん。

来てくれてたんだね。

すぐそこに、
いてくれたんだね。