名前のない香水

練習場の隅で、スマホの画面が青く光る。

届いたのは、写真が一枚。

写真の端に、
白くて細い指先が、少しだけ映り込んでいた。

桐谷は、その指から目を離せなかった。

あのとき触れた、
小さくて、冷たい手。

画面越しに触れることはできないけれど
一花が今、確かにこの空の下で呼吸をしている。

その事実に、胸の奥が痛いくらいに締め付けられた。

――会いたい。

喉の奥まで出かかったその二文字を、一度飲み込む。
入院してから一度も会えていない、空白の時間。

桐谷はかじかむ指で、一花の体温を確かめるように文字を打った。

『写真、ありがとう。手、ちょっと痩せたか?』
『……体調、どうかな。』

一度消して、打ち直す。

『もし、一花の調子が良ければ。……今度、お見舞いに行ってもいい?』