名前のない香水

『おはよう。
じゃあ、同じ空だな。
……返事、遅くなってごめん。』

嬉しくて、指先が熱い。
返信の内容も、その短い言葉の隙間から溢れる迷いも、全部が桐谷くんらしくて。

――「同じ空だな」

画面越しに届けられたその言葉をなぞるように、一花は窓際に歩み寄った。
柵越しに見えるのは、1月の、刺すように冷たくて、けれどどこまでも透き通った青。

「……うん。同じ空だよ」

小さく呟いて、カメラを起動する。
切り取られた四角い空は、きっと彼が見ている空とどこかで繋がっている。

手すりに指をかけ、少し背伸びをしてシャッターを切った。

送信。

言葉で伝えるよりも先に、今のこの、胸が震えるような青色を桐谷くんに届けたかった。