名前のない香水

それから数日、体調は落ち着いていた。胸の痛みも息苦しさも、嘘みたいに引いていく。

「調子よさそうだね」
夢にそう言われ、うなずく。
本当だった。この数日は、ちゃんと大丈夫。

だから、あの日のことは思い出さないようにする。

――けれど、視線は増えた。

授業中も、廊下ですれ違うときも。

ふと顔を上げそうになる瞬間もある。

でも私は見ない。見なければ、気のせいで済む。

今日もノートに視線を落とし、何事もなかったふりを続ける。