名前のない香水

夢がドアを開ける。

「いちかー!元気してる?」

明るい声。

でも目は一瞬、点滴を見る。

ベッド脇のスマホにも気づく。

何も言わない。

ただ、いつも通りの顔で、隣に座る。

他愛ない話が続く。

クラスのこと。
先生の変な口癖。
購買のパンが値上がりしたこと。

そして、ふと。

夢が何気なく言う。

「今日さ、桐谷くん、試合でさ」

一花の視線が、ほんの少しだけ動く。

夢は気づいている。

「なんかね、違う雰囲気だった。」

「シュート決めても、いつものポーズもしていなかった。」

責めるでもなく、茶化すでもなく。

ただの報告みたいに。