名前のない香水

既読が、ついた。

それだけ。

返信は、来ない。

画面は静かなまま。

少しだけ、胸がざわつく。

言いすぎたのかもしれない。

「病室」なんて、わざわざ言わなくてもよかったのかもしれない。

スマホを伏せる。

天井を見る。

何も変わらない白い光。

点滴のしずくが、一定の間隔で落ちる。

カーテンの隙間から、やわらかい風が入る。

外では、誰かの笑い声が遠くで響いた。

世界は、いつも通り動いている。

私だけが、少しだけ立ち止まっているみたいだった。

数分後。

それでも、通知は鳴らなかった。

画面をもう一度、そっと確かめる。

変わらない表示に、小さく息を吐く。

同じ空を見ているはずなのに、距離はちゃんとあった。

触れられない分だけ、
その青さが、少しだけ遠い。