名前のない香水

「桐谷くん……」

一花の母は、静かに息を吐いた。

もう隠せない、と覚悟を決めたように。

「一花はね……少し前から治療をしているの」

その言葉に、桐谷の心臓が大きく鳴る。

やっぱり。

あの日、夢にうなされながら話していた“治療”は
聞き間違いじゃなかった。

「体調が安定しなくて……
 今日も検査なの」

桐谷の指先が、じわりと冷える。

「入院の可能性も、あります」

その一言で、
周りの音が、遠くなった。