名前のない香水

胸の痛みは、まだ残っている。
でも、立てないほどじゃない。

……大丈夫。

一花は壁から手を離し、
何事もなかったように背筋を伸ばした。

顔を上げたとき、
廊下の向こうにいたはずの姿は、もうなかった。

見間違いだったのかもしれない。
そう思うことにする。

そのまま教室に戻り、
いつも通り席に着く。

誰にも、何も言われなかった。
何も起きなかった。

それで、よかった。