名前のない香水

桐谷は、その場に立ち尽くした。

さっきの横顔が、頭から離れない。

青白い顔。

細い首。

あれは、ただの風邪じゃない。

「……病院、だよな」

今日は平日。

学校は午前で終わり。

あの時間に車で出かける理由なんて、限られている。

きっと、これから病院に行くんだ。

桐谷はスマホを取り出す。

この辺の病院。

内科。

総合病院。

片っ端から検索する。

一花の家から車で行ける距離。

駐車場が広いところ。

あの方向。

「……もしかして」

一つ、思い当たる病院がある。

前にクラスで健康診断の再検査の話になったとき、
一花がぽつりと名前を出していた。

そこかもしれない。

心臓がうるさい。

間違いかもしれない。

でも。

じっとしていられない。

桐谷は走り出す。

制服のまま。

鞄も持ったまま。

息が上がる。

それでも止まらない。

もし違ってもいい。

もし迷惑でもいい。

あの目の理由を、

知りたい。