名前のない香水



今さら、遅い。

一方で。

玄関を出た桐谷は、
しばらく立ち止まっていた。

拒まれた理由は分かる。

体調が悪い。

それだけだ。

頭では理解している。

それでも。

既読はつくのに返信はない。

そして今日も、会えない。

ポケットの中で拳を握る。

俺、何か間違えたか。

体育祭の日。

あの夜。

何か、余計なこと言ったか。

考えても、答えは出ない。

ただ。

会いたかっただけなのに。

心配だっただけなのに。

夕方の風が、少し冷たい。

桐谷はスマホを開き、
一度メッセージを打つ。

「無理すんなよ」

——送らない。

画面を閉じる。

声にできないまま、
想いだけが残る。

声のないまま、
時間だけが過ぎていく。