名前のない香水

モニター越しでも分かる。

少しだけ不安そうな顔。

お母さんが玄関へ向かう足音。

「こんにちは」

やわらかい声で応対している。

胸が、どくんと鳴る。

どうしよう。

こんな顔で。
こんな格好で。

髪はぼさぼさ。
部屋着のまま。
顔色もきっと、ひどい。

こんな弱っている姿、見られたくない。

心配させたくない。

でも本当は——

会いたい。

「一花」

ドア越しにお母さんの声。

「桐谷くん、来てくれたわよ」

一瞬、息が止まる。

足が動かない。

喉が、ひりつく。

「……今日は、会えないって言って」