名前のない香水

しばらくは、体調も落ち着いていた。

朝も起きられるし、
授業も最後まで受けられる。

あの夜のあたたかさが、
まだ胸の奥に残っているみたいだった。

でも——

薬を変えた日から、
少しずつ歯車がずれていった。

最初は軽い吐き気。

次は頭の重さ。

身体が鉛みたいに重くて、
布団から起き上がれない朝が増えた。

「今日も休むの?」

お母さんの声が、
ドア越しに静かに響く。

責める声じゃない。
心配の声。

それが余計に、
胸を締めつける。

学校を休む日が増えていく。

クラスのグループLINEは
通知だけが増えて、
私はそこにいないみたいだった。

桐谷くんからのメッセージは、
相変わらず優しい。

「無理すんなよ」

短いけれど、
あたたかい。

でも、

会えない時間が続くと、
その優しささえ遠く感じる。

声を聞かない日が、
一日、また一日と増えていく。