名前のない香水

門灯の光に照らされた横顔を見ながら、
ふと思う。

桐谷くんは、
きっと不器用だ。

言葉も少ないし、
目つきも少し鋭い。

だから、
怖いって思われるんだろうな。

でも。

本当は、
こんなに優しいのに。

さっきの手を、
思い出す。

そのギャップを知っているのは、
今はまだ、私くらいかもしれない。

そう思ったら——

ふっと、
胸の奥がゆるむ。

「……うふふ」

思わず、声がこぼれた。

「……なんだよ」

桐谷くんが、
少しだけ眉を寄せる。

その顔も、
やっぱりちょっと怖い。

でも。

さっきより、
ずっと愛おしい。

「なんでもない」

体調はまだ万全じゃないはずなのに。

不思議と、
気持ちは落ち着いていた。