名前のない香水

体育の終わりを告げるチャイムが鳴って、
廊下が一気に騒がしくなる。

「一花、大丈夫?」

夢が、少し息を切らしながら覗き込んできた。
その目は、いつもより少しだけ心配そうで。

「うん、大丈夫だよ」
私はできるだけ軽く笑う。

「ほら、今飲んでる薬も合ってるし。
前より、全然平気」

夢は少しだけ納得していない顔をしたけれど、
それ以上は何も言わなかった。

「無理しないでね」

「ありがとう、夢」

そう答えながら、胸の奥がちくりと痛む。

――嘘。

本当は、少しだけ苦しい。
胸の真ん中が、重たい。

でも、夢は優しい。
これ以上、心配させたくなかった。

だから私は、平気なふりを続ける。