神に選ばれなかった者達 前編

学校は楽しい。授業も、図書室も。

何より、お兄ちゃんと一緒に、貧しいながらも安定した生活を送れていることが、何物にも代え難い幸せだ。

…だけど、忘れてはいけない。

私達は生贄なのだ。

夢の中に囚われている、生贄。

だから私は、この図書室に来た。

今私達を苛んでいる、あのゾンビ達。

あいつらを倒す為に、何か少しでもヒントを得る為に。

…ゾンビの生態について、調べに来た。

該当の本が見つかると良いんだけど。

「探してる本があるの?…どんな本?一緒に探そうか?」

「あ、ありがとう…でも、自分で…」

「遠慮しなくて良いよ。どんな本?検索機を使っても良いし」

「…」

…そういうことなら。

私一人で見つけられるか、不安だったし…。秋本君に協力してもらえたら、有り難いかも。

…ちょっと恥ずかしいけど。

でも、そんなこと言ってられないよね。

落とし穴作戦は、私のせいで瓦解したも同然。

ならば、今度は私が、打開策を提示しなければ。

「えーっと…。…今探してるのは…」

「うん、どんな本?」

「…ゾンビの本」

「…ゾンビ…!?」

…ごめん。やっぱり言わなきゃ良かった。

秋本君、物凄くびっくりした顔しちゃってるよ。

「えっと…。き、聞き間違いかな…。今、ゾンビって聞こえたような…」

「…聞き間違いじゃないのよ…。…本当にゾンビなの」 

「そ、そっか…。え、本当に…?」

…本当なのよ。

意外に思うかもしれないけどね。

「…もしかして空音さん、ホラー映画とかホラーゲームとか好き…?」

「そ…そういう、訳じゃないけど…」

じゃあ何でゾンビ…?という顔で、秋本君がこちらを見ていた。

…まさか、ゾンビと戦う為なの、とも言えず。

だけど、一度言ったものは引き下がれない。

何とか押し切るしかない。

えーと、えーと…。

必死に言い訳を考えて、出てきたのは。

「わ、私がじゃなくて…お兄ちゃんに頼まれたの」

「えっ?」

思いついたのは、お兄ちゃんのせいにすることだった。

…ごめんなさい、お兄ちゃん。

帰ったらちゃんと謝ります。

「お兄ちゃん…その、兄がそういう本を読んでみたいって言ってて…それで、探しに来たの」

「あ、そ、そうだったんだ…」

そういうことにしておいて。

「空音さん、お兄さんがいたんだね」

「えっ?う、うん」

「歳、いくつ離れてるの?」

「4つだよ。19歳なの」

「へぇ。じゃあ大学生なんだね」

「…」

返事が出来なかった。

まさか、大学生どころか、一度も学校に行ったことがないなんて言えない。

「う、うん…。まぁ…そうね」

適当に、曖昧に笑い返した。