神に選ばれなかった者達 前編

「私はもう良いから…。今度はお兄ちゃんが学校に行くべきだよ」

私はそう言い張った。

当然、そうするべきだと思った。

私はもう、充分勉強したよ。

文字を書くことも読むことも出来る。両手を使わずに、足し算も引き算も出来る。

それなのに、お兄ちゃんは。

「お兄ちゃんは頭が良くないから、今から学校に行ってもちんぷんかんぷんだよ」

さらっと、何でもないことのようにそう言った。

「夜間の学校でも良いじゃない。1から、勉強…」

「いやいや。今から勉強なんて無理だよ。それに、読み書きならのぞみが教えてくれたから」

そんな。

私だって、お兄ちゃんの先生になってあげられるほど、知識がある訳じゃないから。

私が教えたのは、本当に最低限の知識だけだ。

不充分に決まってる。

「お兄ちゃんより、のぞみの方がずっと頭が良いから。のぞみが学校に行くべきだよ」

「私はもう、充分勉強したよ…!中学校なんて行かなくても…」

「大丈夫。お金のことなら心配しなくても」

そうじゃないんだよ、お兄ちゃん。

確かにお金のことだって心配だけど、それ以上に私は、お兄ちゃんにも…。

「のぞみが3年間、中学校で勉強出来るように、ちゃんと考えてあるから」

その為に、また3年間苦労するの?

やっと小学校を卒業したのに。やっとお兄ちゃんを学費の負担から解放してあげられると思ったのに。

また、自ら苦労を抱え込もうとするの?

どうしてそんな風に言えるの。そんな優しい顔で。

私のことなんて無視してしまえば、お兄ちゃんはもっと楽に生きられるのに。

「…お兄ちゃんが学校に行かないなら、私も行かない」

「えっ」

こうなったら、私も強硬策に出るしかなかった。

これ以上お兄ちゃんの重荷になるなんて、私だってまっぴらなのだ。

「中学校なんて、絶対行かないから。制服も要らない」

中学校に入学する。ただそれだけのことで、一体どれほどお金がかかると思ってるの。

制服、通学鞄、靴、教科書…他にもたくさんの費用がかかる。

しかも、入学の費用だけじゃない。

学校に通っていれば、度々、何かとお金が出ていくことになるだろう。

その度に、そのお金を工面する為に、お兄ちゃんがどれほど苦労するかと思うと。

とてもじゃないけど、素直に中学校に行きます、なんて言えなかった。

…しかし。

さっきまであんなに優しそうな顔だったのに、お兄ちゃんは突然、険しい表情に変わった。

「それは駄目だよ。いくらのぞみの頼みでも、それは聞き入れられない」

…え。

「な、何でっ…」

「のぞみは学校に行くんだ。普通の女の子みたいに中学校に行って、普通の女の子みたいに学生生活を送るんだ」

「だから、何で…」

「何でも何もない。それがお兄ちゃんの夢なんだから」

…夢?