神に選ばれなかった者達 前編

一体何処に捨てられたのか。

残念ながら、そう簡単には見つからなかった。

あんな大きなもの、すぐ見つかると思ったんだがな。

校舎内をぐるっと一周したが、それでも見つからなかった。

今回はなかなか手強い。

仕方ないから、校舎を出てグラウンドの方まで探しに行こうと思ったが。

ここでタイムアウト。

予鈴が鳴り響き、あと5分ほどで一時間目の授業が始まってしまう時間になった。

万事休す、という奴だな。

仕方なく、俺は手ぶらで自分の教室に戻ることにした。

帰ったら何かの魔法がかかって、机と椅子が戻ってきてくれていれば良かったのだが。

この世には、そんな都合の良い魔法は存在しない。

教室に戻ってきた時にも、俺の席はぽっかり穴が開いたように何もなかった。

手ぶらで戻ってきた俺を見て、雨野リリカや、他のクラスメイト達も、ほくそ笑んでいた。

ある者は露骨に、ある者は興味津々で横目に見ている。

俺がどうするのかを、じっと観察しているのだろうが。

どうするのかなんて、決まっている。

机も椅子もないのだから、床に座るしかない。

俺は、自分の席…が、あったはずの場所に、そのまま腰を降ろした。

それを見て、雨野リリカはぷっと噴き出した。

「うっそ。マジ?」

「勇者じゃんw」

「床で授業受けるとかw」

他のクラスメイト達も、ひそひそと楽しげに喋っていた。

…床に座っただけなのに、何故勇者…?

クラスメイトの勇者の基準が分からないが。

「静かにしろー、お前ら。時間だぞ」

そこに、一時間目の授業を担当する教師が入ってきた。

自然と、クラスメイトのおしゃべりが止まった。

教師は気だるそうに教室を見回し、そして床に座り込んで教科書を広げている俺に気づいた。

そりゃ、まぁ目立つだろうな。

一人だけ床に座ってたら。

俺も不本意なんだが。

「何だ?萩原(はぎわら)…そんなところに座って」

萩原、とは俺の名字である。

萩原響也。

「先生!萩原君は、机と椅子を忘れてきたそうですよ」

雨野リリカが、やけに楽しそうに手を上げて教師に報告した。

…別に忘れてきた訳ではないのだが。

そんなこと、クラスメイトも、教師だって勿論分かっているはずだ。

しかし。

「何?まったく…。困った奴だなお前は」

教師の方も、半笑いでそう答えた。

まるで俺が悪いかのように。

「まぁ良い。じゃ、この間の続きから始めるぞ」

そして、何事もなかったように授業を続行。

こんな面倒事には関わりたくない、とばかりに。

別に、教師が何かしてくれると期待していた訳ではないから、それで構わない。

この時点で俺は、少なくとも今日の授業は、床で受けることが決定した。

授業の内容は、机で聞こうが床で聞こうが変わらないし、特に問題はないだろう。…多分。