神に選ばれなかった者達 前編

私とお兄ちゃんが今住んでいるのは、スラム街にほど近い、寂れた地方都市の一角。

治安は悪いしインフラも最低限だけど、そのお陰で地価は安い。

アパートの家賃だって、帝都とは比べ物にならないくらい安い。

だから私達は、ここに住んでいるのだ。

これでも、スラム街に比べれば天国も同然。

そして私は、このアパートから毎日、往復3時間ほどかけて中学校に通っている。

この近くには中学校がなく、これでも家から一番近い、最寄りの学校なのだ。

登下校の道のり大変だけど、でも、私はそれを苦痛だと思ったことは一度もない。

学校に行けるというだけで、スラム街の子供達にとっては羨望の的だった。

スラム街には今も、学校にも行けず、自分の名前さえ書けない子供達がたくさんいる。

それなのに私は、同じスラム街の出身でありながらも、こうして屋根のある部屋に住み、毎日学校にも通っている。

生活は楽じゃないけど、でも、毎日食べるものがある。

それだけで、私はとんでもない幸せ者だ。

そして、私にこれほどの幸せを授けてくれたのは、すべてお兄ちゃんのお陰だ。

私は小学校の数年と、今、こうして中学校にまるまる3年通っている。

だけど、お兄ちゃんは学校に行ったことがない。

今でこそ、学校で読み書きを習ってきた私が、家でお兄ちゃんに教えたお陰で。

お兄ちゃんもある程度は、読み書きが出来るようになっているけれど。

数年前までは、お兄ちゃんは自分の名前を書くどころか、読むことさえ出来なかった。

お兄ちゃんは、自分も学校に行きたい、なんて一度も言ったことがない。

生活に余裕がないせいでもあるが、お兄ちゃんは一度も、自分の為に何かしようとしたことがないのだ。

今でも忘れられない。

「やっと学校に行けるよ」と嬉しそうに言って、お兄ちゃんが文房具を買い込んで帰ってきた時のことを。

その時てっきり私は、お兄ちゃん自身が学校に行くものだと思っていた。

でも、お兄ちゃんじゃなかった。

お兄ちゃんは自分ではなく、私を学校に通わせる為に、一生懸命お金を工面してくれたのだ。

小学校の数年、学校に通わせてもらって。

同級生は、当たり前のように中学校に入学することを楽しみにしていた。

だけど私は、中学校に進学するつもりはなかった。

私は小学校に通わせてもらったのだから、今度は当然、お兄ちゃんの番だと思っていた。

今度はお兄ちゃんが学校に通って、私が家のことをしたり、お金を稼いだりしようって。

でも、お兄ちゃんはそんな私の提案を、頑として聞き入れなかった。







…あれは、小学校の卒業式を終えた数日後のことだった。

「のぞみ、今日、一緒に買い物に行こう」

お兄ちゃんが、私にそう声をかけてきた。