神に選ばれなかった者達 前編

学生鞄を手に、履き慣れたスニーカー靴を履いて、安アパートの一室を出る。

今日も元気に登校。

…と、思ったのだけど。

「うわっ…。危ないなぁ、もう…」

アパートの階段に、お酒の空き缶が転がっていた。

おまけに、煙草の吸殻まで。

幸い煙草の火は消えているけど、一歩間違えば大惨事を引き起こしかねない。

煙草のポイ捨て駄目。絶対。

多分、夜の間に酔っ払って帰ってきた住人の仕業だろう。

これが初めてじゃない。こういうことは、以前から何度もあった。

だから、このようなマナーの悪さを見ても、今更驚きはしないけど。

嫌だなぁとは思う。

でも、だからってアパートの住人に苦情を入れようものなら、「それの何処が悪いんだ」と逆ギレされるのは目に見えている。

私とお兄ちゃん以外の大半の住人は、煙草や空き缶のポイ捨て程度で、目くじらを立てたりはしない。

そもそも、住人達の民度が低いのだ。

誰も掃除しないから、階段も廊下もゴミだらけ、埃まみれだし。

アパートのゴミ捨て場は、曜日、時間関係なしに、皆出したいゴミを出したい時に出している。

燃えるゴミは火曜日、燃えないゴミは金曜日、ってちゃんと決まっているのに。

当然、回収されなくて、野ざらしになったゴミの山が、異臭を放っている有り様。

一体誰が捨てたのか、ドアが外れた古ぼけた冷蔵庫が、野ざらしになっており。

ゴミを漁りに来たカラス達が、ゴミの山に群がっていた。

…酷い有り様。

だが、今更気にする必要はなかった。

私が階段を駆け下りると、カラス達が一斉に飛び立った。

もう慣れたもの。

アパート自体も古くて汚くて、外壁が剥がれていて。

耐震性も不充分だし、部屋の壁の薄さと言えば、お隣さんの席やくしゃみの音が聞こえるほど。

雨漏りだって珍しくなく、そして住んでいる住民の数の、軽く100倍くらいはゴキブリの数の方が多かった。

停電、水漏れもしょっちゅうで、未だに我が家では、時代錯誤なろうそくが手放せない。

部屋数は少ないし、その部屋も狭いし、壁紙はボロボロで、窓もガタついて隙間風が吹いている有り様。

帝都の綺麗な家に住んでいる人達がこんなアパートに来たら、きっとあまりの汚さに失神してしまうだろう。

だけど私にとっては、まるで王様の宮殿のように映っていた。

いや、私だけではない。

私が生まれ育ったスラム街の住人にとっては、屋根のある場所で寝られるというだけで、天国のようなものなのだ。