神に選ばれなかった者達 前編

この、人の悪そうなニヤニヤした笑みを見れば分かる。

他人を馬鹿にしている時の顔だ。

これほど醜い顔は、なかなか存在しない。と思う。

口には出さないが。

座る席がなくなっていることは、雨野リリカも見れば分かるだろう。

「…それが、登校してきたら机も椅子もなくなっててな」

「へぇ?何処やったの?」

「さぁ。…それはお前が知ってるんじゃないのか?」

そう尋ねると、雨野リリカは馬鹿にしたように、鼻を鳴らして笑った。

「知らないわよ、そんなの。私のせいにしないでくれる?」

「…」

お前のせいだ、とは一言も言ってないんだがな。俺は。

無意識にそんな言葉が出てくるということは、やはり知ってるんだな。

「それにしても、あんたもなかなかワイルドね。机と椅子を忘れて学校に来るなんて、前代未聞じゃないの?」

「ほんと。でも、大丈夫だよ。ユートーセイ君なんだから」

「そうそう。授業なんか受けなくても満点だもんねー」

雨野リリカと、その取り巻き達が続けて言い、楽しそうにどっと笑っていた。

ユートーセイ…優等生、ね…。

…本当にそうだったら、どんなに良かったか。

ともあれ、起きてしまったことは仕方ない。

経験上、これ以上雨野リリカを問い詰めても無駄なことは分かっている。

彼女達は、決して俺の席を何処に捨ててきたか、白状しないだろうから。

ならば、自分で探す方が良い。

俺は雨野リリカを無視して、教室を出た。

その背後から、彼女達の高らかな笑い声が響いていた。

一方の俺はこれから、捨てられた机と椅子探しである。

登校して、まず最初にやることが、自分の机と椅子探しとは。

こんなことなら、もっと早く登校しているべきだったか。

一時間目が始まるまでに、無事見つかると良いのだが。




…しかし。