神に選ばれなかった者達 前編

「前より遥かに下がってるじゃない」

「そ、それは…。…今回の試験は、特別難しかったからだよ」

…聞いたところ。

どうやら、試験の点数が下がっていることについて、小言を言われているようだ。

「もうすぐ受験だっていうのに、部活ばっかりやってるから…」

「別に良いじゃん。部活は部活だろ?」

必死に言い返す眞沙である。

…正直、羨ましい。

試験の点数のことで親に怒られて、それに対して口を尖らせる、なんて。

俺には、絶対に出来ないことだったから。

…しかし、段々と話の矛先が怪しくなってきた。

「しょうがないだろ。今回は、響也兄ちゃんに試験勉強、付き合ってもらえなかったから」

眞沙が、俺の名前を出したことによって。

まさか、俺がこっそり立ち聞きしているなんて思ってもいないのだろう。

「そうなの?」

「そうだよ。なんか体調が悪いって言って…」

眞沙にも悪気はないのだろう。

試験の点数が悪かったことについて、何とか言い訳を作ろうとして。

悪気なく、俺の名前を出しただけだ。

それは分かっている。

分かっているけど…。

「あぁ、そういえば…。最近、学校にも行ってないみたいだったわね」

「今日は久し振りに行ってたみたいだけどね」

「まったく…何を考えてるんだか。これだから、あの姉さんの子を引き取るなんて嫌だったのよ」

叔母は、心底うんざりしたように言った。

叔母が日頃から俺のことをどう思っているのかは、理解しているつもりだった。

でも、実際にそうぼやいているのを聞くと、やはり気分が悪かった。

「それでも、子供達の家庭教師をしてくれるならと思って引き取ったのよ。それなのに、その役目さえ果たさないなら、何の役にも立たないわ」

「母さん…そんな…」

「だってそうでしょ?さっさと出て行くなり、姉さんのところに帰ってくれれば良いのに」

叔母は溜め息混じりにそう言って、そのままキッチンの方に向かっていく足音が聞こえてきた。

…俺はリビングには入らず、そのまま、くるりと踵を返した。 

眞沙にあげようと思っていた試験用紙を、無意識に強く握り締めてしまったらしく。

気がつくと、用紙がくちゃくちゃになっていた。

…これじゃ、もう渡せないな。

叔母の言葉は辛辣だが、でも無理もないことだ。

叔母と甥とはいえ、結局は他人なのだから。

帰れるものなら、帰りたい。

でも、もう無理なのだ。

あの家に、俺の居場所は何処にもない。

…いや、最初からそんなものはなかったんだ。

俺だって、自分の役目くらい分かっている。

叔母が家庭教師代わりに、この家に引き取ってくれたことも。

だけど…駄目だったのだ。悪夢が…あまりにも、辛くて。

そしてこの苦しみは、これからも永遠に続いていくのだ。

未来永劫。多分、俺が死ぬまで。