神に選ばれなかった者達 前編

のろのろと、一歩一歩を踏み締めるようにして学校に辿り着いた。

駅までの道のりが。電車での移動が。

そんな当たり前のことが、酷く新鮮で、何処か他人事のように見えた。

いつの間にか俺の現実は、あの夢の中に変わろうとしているのかもしれない。

のろのろ歩いたせいで、学校に辿り着いた時は、既に一時間目の授業が始まっていた。

だが、そんなことはどうだって良かった。

玄関から校舎内に入る時は、さすがに足が震えた。

自然と、ゾンビのあの特徴的な足音が聞こえないかと、耳を澄ませてしまったが。
 
そんな足音は、何処からも聞こえなかった。

普通の人間の足音が聞こえただけだった。

恐る恐る校舎内に入り、俺はそうっと廊下から顔を覗かせた。

やはり、そこには不気味なものは何もいなかった。

そのことに、俺は安堵した。

…本来、これが当たり前のはずなんだけどな。

校舎内にゾンビがいないことに安心するなんて。俺はどうかしている。

それどころか、教室内に人がいることにも驚いていた。

夢の中では、無人だったからな。

昨日の夜は、3階にある自分の教室から、校舎の外にあるゴミステーションまでの道のりを、たっぷりと時間をかけて進んだ。

しかし今日は、ほんの数分足らずで辿り着いた。

ただゾンビがいないというだけで、これほど校舎内の景色が違って見えるとは。

教室の扉に手をかけ、俺は自分の教室に入った。

授業中だった教室内では、教師を含め、クラスメイト達が一斉に、こちらを振り向いた。

いずれも、驚いたような顔をしていた。

「あれっ…。萩原…。お前、来たのか」

片手にチョーク、片手にテキストを持った教師が、驚いて俺にそう言った。

…なんだ。

まるで、来ちゃいけないみたいな言い方だ。

どうやらこのクラスは、俺がいない間に席替えをしたらしく。

机の配置が、俺の記憶にあるものとは違っていた。

「もう来ないのかと思ってたぞ」

そうか。

結局、半月近く休んでしまったからな。

そう思われるのも無理はないか。

昨夜『処刑場』の仲間達に会わなかったら、もう二度と登校しなかったかもしれない。

「何で休んでたんだ?」

それ、クラスメイトの前で聞くことか?

しかし、なんと答えたものか。それは全然考えてなかった。

体調不良…にしては長過ぎるが。

悪夢だって体調不良のようなものだし、それ以外に言い訳も思いつかない。

それに、どうせ深く追及されることは、ないと分かっていた。

「体調が悪かっただけです」

俺は、言葉を濁して答えた。

すると、案の定。

「ふーん…」

そう言ったきり、それ以上は聞いてこなかった。

ほらな。そんなものだろうと思っていた。

「…それで、俺の席は何処に…?」

見たところ、教室内に空席が見当たらないのだが。

「あー、お前、もう来ないものだと思ってたから…。机と椅子、片付けちゃったんだ」

「…」

「空き教室から、自分で持ってきてくれ。好きなところに座って良いぞ」

とのこと。

まぁ、このクラスでの俺の扱いは、所詮この程度だ。