神に選ばれなかった者達 前編

戦うことを諦めたとしても、悪夢は俺達を放っておいてはくれない。

抵抗をやめるということは、一方的に殺されるということだ。

一晩に何度も。毎晩。

どんなに心を殺したって、死の痛みに慣れることなんて出来ない。

しかも、俺達を襲う理不尽な現実は、その痛みだけではなかった。

「それに…気づいてるか?響也」

「…何に?」

「夢の中で死ねば死ぬほど、日常が侵食されていることに」

しん…しょく?
 
これ以上、まだ俺達に過酷な現実を突きつけるのか。

「何だ…?侵食って…」

「夢の中での死は、現実にも影響するんだ。あんたも何度も死んでるなら、多分覚えがあるだろう。現実生活で、視界にモヤがかかったり、奇妙な人影が見えたりしなかったか?」

「…!」

もしかして。それって。

覚えがあった。

眞沙がゾンビに見えたり、視界の端にノイズが走ったり、黒いモヤが見えたり。

悪夢のせいで精神的に参ってるから、そのせいだと思っていた。

だけど…違っていたのか。

あれは、俺が夢の中で無様に死んだから。

夢の中での死が、現実世界を侵食して…。

「…その様子だと、覚えがあるようだな」

愕然としている俺に、佐乱李優は悲痛な表情で言った。

「死ねば死ぬほど、侵食はもっと酷くなる。そうするともう、とてもじゃないけど、健全な日常生活を送ることは出来ない」

「…」

「だから、無闇に死ぬ訳にはいかないんだ。死ねば、現実が侵される」

「…とはいえ、悪いことばかりじゃない」

と、空音いそらが口を挟んだ。

何が「悪いことばかりじゃない」だ。

こんなところにいる時点で、悪いことしか起きていないじゃないか。

「何を言ってる…?」

「侵食は防げるんだ。夢の中でバケモノを…今はゾンビのことだね。ゾンビを倒せば倒すほど、日常生活の侵食は弱まっていく。侵食を防ぐには、バケモノ共を倒すしかない」

「…」

あぁ、そう。成程。

一体誰が、俺達をこんなところに連れてきて、こんな下らないことに巻き込んだのか知らないが。

そいつは、俺達が嫌でもバケモノ退治をするように、巧妙に計画を立てていたらしい。

夢の中での死は、現実にも影響する。

絶望して諦めて、死の痛みを受け入れることを選んだとしても。

今度は現実が侵食され初めて、夢の中だけではなく、現実でも生きられなくなる。

現実を守る為には、否が応でも、夢の中で戦うしかない。

絶望することさえ、諦めることさえ許してくれないという訳だ。

だからこそ彼らは、終わりのない悪夢と立ち向かっている。

現実世界の自分を守る為に。

…そして俺も、同じ選択をするしかないという訳だ。