神に選ばれなかった者達 前編

「…慰めになるかは分からないが、敢えて希望的観測をするなら」

ずっと黙っていた空音いそらが、口を開いた。

「この世界に出てくるバケモノ達を全部倒せば、僕達の役目が終わって、生贄から解放されるされる可能性も、ない訳じゃないと思う」

「…つまり、この校舎にいる全てのゾンビ共を倒せと?」

出来るはずがない。そんなこと。

たった一体倒すだけでも、あんなに時間がかかったのに。

昼間『処刑場』の掲示板を見た時、久留衣萌音は既に、50体以上のゾンビを倒したという。

この校舎の中に、全部で何体いるのか分からないが。

その全てを俺達で倒し切るなんて、そんなこと…。

しかし。

俺が思っている以上に、この世界は。

この悪夢は、地獄だった。

「ゾンビ共だけじゃない。全部だ」

「…どういう意味だ?」

「…」

空音いそらや佐乱李優達は、互いに何と言って良いか分からない、という顔で見つめ合った。

そして、意を決したように言った。

「この悪夢に終わりはない。ゾンビ達を倒したら、今度は別の場所で、別のバケモノ共と戦わなきゃいけないんだよ」

「…は…?」

「事実僕達は、この世界でゾンビと戦う前に…別の世界で、巨大なキメラと戦った」

「その前は確か、ミイラの軍団だったよな」

「その前は…大きなタコのバケモノだったね」

キメラ?

ミイラに、タコのバケモノ…?

この人達は…そんなものと…戦ってきたのか?

「だからきっと、ゾンビ達を全部倒したら、今度は別のバケモノに襲われるだろう」

「…」

悪夢に終わりがないというのは、こういうことだったのか。

倒しても…倒しても…現れる。

一つ終われば次の脅威が。それが終わればまた次の脅威が。

終わりなく。永遠に。

「もう、何を何匹、何回倒したのか、萌音はいちいち数えないことにしてる」

「…」

「君も生贄に選ばれたんだから、これからは萌音達と同じ運命を辿ることになるんだよ」

「…耐えられない」

俺は、そう呟いていた。

そんなの、絶対に…。

「耐えられない…。俺には、とても…」

「分かってる。でも耐えなきゃいけないんだ」

まるで他人事のような言い方に、あんまりだと思ったが。

しかし彼らもまた、同じ辛さを乗り越えてここまでやって来たのだ。

どうして、責めることが出来るだろう。

…それに。

「諦めたくなることは、これまで無限にあったよ。だけど…諦めたくても、諦められないだろ」

「…え…?」

「毎晩毎晩、死ぬ痛みに耐えられるか?」

佐乱李優にそう聞かれて、ハッとした。

諦める。戦うことを放棄する。

しかしそれは、無抵抗に毎晩、朝まで何度も一方的に殺される。その度に地獄の苦しみを味わうことを意味するのだ。

戦うことも耐えられないが、死の苦しみだって、同じくらい耐え難いものだった。