神に選ばれなかった者達 前編

3階から1階までの道のりが、まるで永遠のように感じられた。

階段を数段降りる度に、息を殺し、耳を澄ませ、気配を研ぎ澄ませる。

銃撃戦でもしているかのように、壁にべったりと背中をつけ。

首だけを廊下に突き出して、周囲を注意深く見渡した。

3階は静かだったが、2階、1階に近づくにつれ。

段々と、ゾンビの数が増えていった。

ベタッ、ベタッ、と、粘液が混じったような特徴的な足音が、廊下のあちこちから聞こえてきた。

その度に寒気がした。

そしてその度に、強く左手の錐を握り締めた。

錐には未だに、悪臭を放つピンク色のゲル状の物体が付着していた。

あいつらが、俺に気づいて襲いかかってきたら。

また、錐で突き刺してやる。

一度手を下せば、もう躊躇う必要などなかった。

しかし不思議なことに、ゾンビ共は、階段には一匹もいなかった。

どうやら、階段の登り下りは出来ないらしいと気づいた。

そういえば、3階の教室で俺を襲ってきたゾンビも。

俺がベランダから落っこちたのをじっと見ていたが、階段を降りてまで俺を追ってくることはなかった。

階段を降りる、登る、という知恵は、奴らにはないらしい。

この情報は、かなり有益なような気がした。

あとは、上手く校舎裏に向かえれば良いのだが。

「はぁ…。…はぁ…」

長い時間をかけて、俺は死ぬことなく1階に辿り着いた。

あちこちから、ゾンビ共の足音が聞こえてくる。

『処刑場』にいた、あの人々は無事だろうか?

ゴミステーションに辿り着く目処が立ったことで、俺は別の不安に襲われ始めた。

あの人達は今も、この校舎の何処かにいるのだろうか。

俺は、自分に都合良く考え過ぎてないか?

無事にゴミステーションに辿り着いたとして、本当に彼らが待っているのだろうか?

分からなかった。この時点では、まだ、何も。

行ってみなければ。

ここはもう1階。窓を蹴破ってでも、外に出れば。

校舎の裏に回って、ゴミステーションを目指す。

荒れる息を必死に整えながら、機を伺った。

獲物を狙う肉食獣のように、辛抱強く待つ。

そして。

ゾンビ達の足音が遠ざかった瞬間を狙って、俺は勢いよく走り出した。

渾身の力を込めて、窓に錐を突き刺す。

大きな音がして、窓が割れた。

俺は窓に飛びつき、割れたガラスの破片が顔や足や手のひらに突き刺さるのも構わず。

窓を蹴るようにして、校舎の外に飛び出した。

俺はようやく、ベランダから飛び降りる以外の方法で、ゾンビが闊歩する校舎の外に脱出したのである。