神に選ばれなかった者達 前編

…またしても、俺は教室の中に立っていた。

死んで、やり直したんだな。

すんでのところで、錐を振り下ろせなかった俺の甘さだ。

さっきまでの躊躇いや恐怖は、不思議と消えていた。

最早、躊躇う必要はない。

俺はもう充分、痛い思いをした。

だったら今度は…こっちの番、じゃないか?

「グィィァァァァ」

さっきまでと同じように。

奇声を発しながら、ゾンビが扉を殴り壊し、侵入してきた。

…来たか。

ゾンビは俺を見つけるなり、一目散に飛びついてきた。

この攻撃パターンは、もう何度も見ている。

何度も何度も、嫌と言うほど見ている。

だから、タイミングを間違えることはなかった。

両手で錐を振り上げるなり。

ゾンビが飛びついてきた瞬間、その頭に深々と、錐を突き刺した。

「ギャッ!!」

突然の奇襲に、ゾンビが甲高い悲鳴を上げた。

ずぶり、と脳を突き破る感触が、両手に伝わってきた。

柔らかい果実に、思いっきりナイフを突き立てたような。

そんな感触だった。

突き刺すなり、錐で空いた穴から、腐臭を放つドロドロの体液が溢れ出た。

その凄まじい臭気に、一瞬気圧されたが。

…そんなもの、これまでの痛みに比べれば何でもない。

「はぁっ…はぁ…」

錐を引き抜くと、ゾンビはその場にグチャッ、と倒れた。

…もう動かない。

もしまた動き出したら、俺はもう一度、したたかに錐を突き刺すつもりだった。

一度やってしまったのだから、もう何度やっても同じことだ。

何回も何回も、俺は殺された。

だったら何回でも、殺し返せば良い。

俺は、脳みそを垂れ流して死んでいるゾンビを、無表情に見下ろした。

…いや、相手はゾンビだから、元々死んでいるようなものだが。

錐をたった一回突き刺しただけで、こんなにも呆気なく…。

…思えば、毎晩のように俺を襲っていた敵は、この一体だけだった。

このたった一体に、どれだけ苦しめられてきたことか。

こんなに簡単なことだったんだ。

あれほど恐れていたのが、嘘みたいだ。

もっと早くにこうしていれば。

もっと早くに自分の武器に気づいていれば。

もっと早くに…覚悟を決めていれば。

終わってみれば、あまりに呆気なかった。

俺は、恐る恐る教室から出た。

他にゾンビがいないかどうか、注意深く周囲を見渡した。

…だが、そこには誰も…いや、何もいなかった。

普段と変わらない、いつもの校舎だった。

でも、これは夢の中なのだ。

そして夢の中なら、『処刑場』にいた彼らは、校舎裏のゴミステーションに集まっているはず。

俺は校舎1階に向かう為に、一目散に廊下を駆け抜けた。