神に選ばれなかった者達 前編

その日の夜、俺は処方された睡眠薬を飲んでから、眠りについた。

そしてその結果は、推して知るべしというものである。

「…!」

睡眠薬のお陰で、ベッドに入るなり、すぐ眠りについた。

しかし、それが間違いだった。

気がつくと、俺はまたしても、教室の中に一人で立っていた。

また…同じ夢の繰り返し。

結局逃げられない。薬なんかでどうにか出来るはずがない。

「あぁ…くそっ…。また…」

どうすれば良い。どうすれば死なずに済む?

しかし、俺に選択肢などあろうはずもなかった。

どうにかしたくてもどうしようもないことは、これまでの経験から分かっていた。

逃げられないと分かっていながら、ベランダに逃げるしか。

どんなに急いで走っても、逃げられるのはベランダの突き当たりまで。

あとは、宙に身を投げる以外に、俺に取れる選択肢はない。

どうしたら良い?どうしたら…。

…だが、考えている暇はなかった。

ベランダから飛び降りる。その際に、2階のベランダの手すりに掴まる。

そうすれば、飛び降りて死ぬことはないはずだ。

まるでアクション映画のような行為だが、死なない為にはこうするしかない。

どうせ、ゾンビに食われるか、墜落死するかのどちらかなのだ。

運が良ければ生き残れる。その方法を取るしかなかった。

ベランダに手をかけ、次いで足をかけ。

これまで幾度となくそうしたように、そのまま宙に身を投げた。

何とか2階のベランダの手すりに、手を伸ばそうとした。

…だが、映画のように上手く行くはずがなかった。

これは夢なのに、この点だけは何処までも現実的だった。

手を伸ばした手は空を切り、掴むことは出来なかった。

2階のベランダには手が届かず、そのまま転落した。

「…くっ…!」

だが、伸ばした手は、確かに銀色の手すりを掴んだ。

2階はなく、その下。

1階のベランダの手すりに、かろうじて右手が届いたのである。

手すりを掴んだ感触に、歓喜したのはほんの一瞬のことだった。

手すりを掴んだのは良いものの、落下中の身体の重さが全部、掴んだ右手にかかったせいで。

右手の肩が、バキッ、と音がして外れた。

「がっ…!」

凄まじい痛みのあまり、反射的に手すりから手を離してしまった。

結果、そのまま地面に転落。

なまじ手すりを掴んで、墜落の衝撃を和らげてしまったものだから。

地面に叩きつけられた衝撃は、さほどでもなかった。

だが、無傷ではなかった。

「ぐっ…。く、うぅ…」

まず、脱臼した肩の痛みに悶絶しなければならなかった。

それから、足。

手すりを掴んだことによって、衝撃が和らいだといっても。

やはり3階から落ちて、脱臼程度で済むはずもなく。

着地の時に足を打ち付けてしまったらしく、片足が燃えるように痛かった。

恐る恐る、自分の足を見ると。

破れた傷口から血が溢れ、曲がった骨が飛び出していた。

即死を免れたが為に、この痛みを抱えながら、朝まで耐えなければならないのか。

もう、いっそ。

「誰か…俺を、殺してくれ…」

絶望の呻きが、誰かに届くことはなかった。