神に選ばれなかった者達 前編

正直、逃げ出したいくらいビビっていた。

さっきは勇ましいこと言ってたけども。

…え?ここまで来たら、潔く、男らしく覚悟を決めろよ、って?

うるせぇ。ふぁにだって人間なんだよ。

人並みにビビる時はビビるし、怖いもんは怖いんだよ。

大体、逃げたくても逃げられないから、仕方なく立ち向かうことを決めたんだ。

もし逃げられるなら、水平線の彼方までだって逃げたよ。

困難に真っ向から立ち向かうなんて、ふぁにはそんな強い人間じゃない。

今だって、勇ましく立ち向かってるように見えて。

ふぁには別に、この半魚人を打ち倒してやる!なんて大それたことを考えている訳じゃない。

さっきも言ったろ?死ぬ覚悟は出来ている。

そうじゃなくて、ただ。

死ぬ前に、一矢報いてやろうと思っただけだ。

半魚人が、耳元まで裂けた大きな口を、がぱっと開け。

逃げる間もなく、ふぁにを一口で丸呑み。

グロテスクに開いた口の中に、あっという間に吸い込まれたかと思うと。

強烈な生臭い匂いがして、同時にバリッ、と音がして、半魚人の鋭い牙がふぁにの身体を貫いた。

それだけで、もう心が折れてしまうくらいの痛みを感じた。

だけど、ふぁには手に持っていた瓦礫を離さなかった。

こればかりは、意地だ。

虐げられ、捕食され、弱者の烙印を押され。

夢の中でも現実でも、いつだって、傷つけられる側に置かれ。

人類は皆平等だ、なんて詭弁を聞く度に、腸が煮え繰り返るような思いを抱えながら。

それでも、無力な自分では何も出来ず。

ただひたすら、悲しい負け犬の遠吠えを上げ続けることでしか抵抗出来ない、生まれながらの敗北者の。

せめてもの、矜持。





ふぁには、死にそうな痛みを堪えながら。

渾身の力を込めて、瓦礫の破片を半魚人の口の中に突き立ててやった。

歯は鋭いが、口蓋は柔らかいらしく。

思った以上の手応えで、ぶすっ、と深く突き刺さった。

途端に、半魚人が喉の奥から、凄まじい断末魔の悲鳴をあげた。