神に選ばれなかった者達 前編

…ところが。

「…」

…畜生、あいつなかなか逃げやがらねぇ。

いつまでも、ふぁにの周囲を悠々と回遊していた。

何やってんだよ…ここに餌はいないっての。早く去れ。

もどかしい思いで、半魚人が去るのを待ったが。

奴は去るどころか、徐々に、じわじわと、こちらに近づいているような気がする。

…何で?嘘だろ?

気の所為だと、必死に自分に言い聞かせたが。

やっぱり、気の所為じゃない。

あいつ、じわじわと距離を詰めてきている。

あの半魚人、人の気配を辿れるのか?

それとも匂いか?匂いで、この辺に餌が隠れてるって分かるのか?

そういえば、魚は人間より嗅覚が優れてるって聞いたことがある。

そういうことか。

匂いでバレるなら、いくら隠れてても意味ないじゃないか。

ふぁにみたいな影の薄い人間でも、それなりに体臭ってものはあるらしい。

全然嬉しくないっての。

このままじっとしてたんじゃ、いずれ見つかる。

隠れる場所を移動したいところだが、今この場を動いたら、間違いなく見つかってしまう。

でも何もしなくても、いずれバレてしまうのだとしたら…。

「…」

ふぁには、覚悟を決めた。

殺される覚悟を。

食べられるのは仕方ない。弱い者は食われ、強い者が勝ち残る。

弱肉強食とは、よく言ったもの。

人間社会でも自然界でも、その掟は変わらない。

…でもな。

弱者だって、黙って食われてるだけじゃない。

弱者にも、それなりの意地とプライドがあるんだってことを教えてやろう。

ふぁには、手近にあった、出来るだけ鋭そうな瓦礫を手に取った。

…来るなら来いよ、半魚人。

ふぁにの意地ってものを思い知らせてやる。

じわじわと、半魚人が距離を詰めてきた。

ついに、奴はふぁにの頭上近くまで迫ってきた。

…来た。

ふぁには、がばっと頭を上げた。

途端、半魚人のぎょろっとした気色悪い目玉が、ふぁにの方を向いた。

あれは捕食者の目だよ。間違いない。