神に選ばれなかった者達 前編

…メンタルクリニック。

つまりは、精神病の治療をする病院である。

自慢じゃないが、そのような病院に行くのは初めての経験である。

抵抗がまったくない、と言えば嘘になる。

最近はメンタルクリニックも敷居が低くなっていると言うから、そんなに気にする必要はないのだろうが。

もっと、気軽に足を運んでも良い病院なんだとは思う。

でも、それでもやはり身構えてしまうのは。

恐らく母の影響だろう。

紹介状に書かれたメンタルクリニックにやって来て、受付でその紹介状を手渡しながら。

このような病院にかかっている俺を見たら、母はどう思っただろうかと想像して。

酷く、憂鬱な気分にさせられた。

…いや、それは関係ないな。

一週間も学校を休んでしまっている時点で、母が俺に失望するのは間違いない。

…なんて、考えても仕方がないけれど。

内科の病院で話したのと同じことを、今度は精神科医に説明した。

…結果、下った診断結果は。






「それは多分、ストレスが原因ですね」

「…」

…とのこと。

どんな症状も病状も、ストレス、という一言で説明がつくんだから、ストレスって便利だな。

でも、他に表現すべきことばが見つからないのなら、仕方がない。

「家庭や学校で、何かストレスを抱えているんじゃないですか?」

「…それは…」

…思い当たる節がまったくない、とは言わないが。

でも…それらは全て、今に始まったことではないはずだ。

「…何年もその状態なのに、ある日、こうしていきなり発症することって、あるんですか?」

「ありますよ。自分でも自覚していないストレスが、積もりに積もって、心の限界を迎えて…」

「それで悪夢を見るんですか?」

「…あまり見ない症例ですが…あなたの場合は、ストレスが夢という形で現れるんでしょうね」

…ストレスなのか?本当に?

経験豊富な精神科医がそう言うのだから、そうなのかもしれないが。

いまいち釈然としないと言うか…。得心が行かなかった。

…とはいえ、原因なんか二の次で良い。

肝心なのは…。

「…それは、どうやったら治るんですか」

治ればそれで良い。どんな方法でも。

「一番良いのは、ストレスの原因の大本を解決することですが…。それは可能ですか?」

「…どうでしょう」

自分でもストレスの原因を把握していないのに、どうやって解決すれば良いのか。

「一人では無理でも、ご家族や友人に協力してもらって…」

「…」

「今日はご家族、一緒に来られてないんですか?お父様とか、お母様とか…」

…それは。

「…居ません。一人です」

両親も、家族も…友人も、俺にはいない。

眞沙は、言えば某か協力してくれるかもしれないが。

まだ中学生の眞沙に、一体何を期待出来るだろう。

自分のストレスくらい、自分で解決するしかなかった。

「そうですか…。協力してもらうことは難しいですか?」

「…えぇ」

「分かりました。それなら…」

結局、その日。

俺は、処方された睡眠薬を3日分、持って帰らされた。