神に選ばれなかった者達 前編

…それから、もう一つ。

「ふぁにの…じゃなくて、ほたるの鞄の中に、『死ね』の手紙を入れたのもあんたさんか?」

雨に濡れて、くっちゃくちゃになってたけど。

「は、はぁ?」

「おいしらばっくれんな。怒んないから言ってみろ」

お母さんや先生の常套句。「怒らないから言ってみなさい」。

この言葉は、「行けたら行くわ」並みに信憑性に欠ける。

「そ…それが何だって言うんだよ」

…やっぱりあんたなのか。

ったく情けない…。情けない奴は語彙力まで情けないんだな。

「あのな…。あんたさん、子供じゃないんだからさ…」

いや、中学生は充分子供なんだけどな。

でも、生後数日のふぁににとっては、中学生は大人だよ。

「言いたいことがあるなら、言葉ではっきりそう言えよ。な?つまんない手紙にしてないで。いくらでも聞いてやるから」

ふぁには、いじめっ子の肩にぽん、と手を当てて言った。

いじめっ子、ポカン。

生まれて十年以上経って、鍛えたのはその間抜けヅラだけか?

「大体、人様に向かって『死ね』なんて、何様だ?そこはちゃんと、『申し訳ありませんがお亡くなりになってくれませんか?』って言えよ」

何で命令形なんだよ。失礼だろ。

親しき仲にも礼儀あり、って言うだろ?…親しくないけども。

むしろ、親しくないからこそ、言葉遣いは丁寧に。

人付き合いの基本ってものだろう。

「生まれて数日のふぁにに説教されてたんじゃ情けないぞ。な?今度からは、もっと語彙力を磨いてだな…」

「な、何だよお前?突然…そんな、別人みたいに」

別人だからな。

あんたがいじめてたのはほたるだろ。ふぁには関係無い。

「き、気持ち悪い…」

心底、奇妙なものでも見るかのような眼差しで、こちらを見て。

いじめっ子は、逃げるようにそそくさと立ち去った。

…。

…逃げられた。

「…気持ち悪い、か…」

ふぁには所謂…多重人格者ってことになるんだよな。

まぁ…もう一つの人格であるほたるは、身体の奥深くで眠ったまま、一向に起きてくる気配がないんだが…。

それでも、この身体の中に、複数の人格が宿っていることは事実だ。

ふぁには生まれた時からこの状態だから、ちっともおかしいとはおもわないけど…。

…知らない人から見たら、きっとふぁには「気持ち悪い」んだろうな。

妹尾家の人々も。

今、この身体の中に宿っているのが、ほたるじゃなくてふぁにだと知ったら。

きっと、同じことを言うのだろう。