神に選ばれなかった者達 前編

「妹尾…ほたる…」

ふぁには再び、もう一度、ほたるの名前を口に出して呼んだ。

…皮肉なもんだな。

ふぁにはこうして、ほたるの存在を知った。

この身体の中に、それぞれ別の人格が同居していることを知ったのだ。

それなのに、ほたるは知らない。

ほたるは、身体の中にふぁにがいることを知らないのだ。

「ほたる…。…ほたる」

ふぁには、何度もほたるを呼んだ。

自分の身体の中に、呼びかけた。

眠っているなら起きてくれ。ほたる、返事をしてくれ。

自分ら、ルームメイトなんだぜ。長年ずっと一緒だった。…お互い自覚していなかっただけで。

一緒に育ったんだ。これからも多分同じ身体で一緒に生きていくんだ。

だから仲良くしよう。同じ身体の中でいがみ合うなんて御免だからな。

お互い望んでのことではないとはいえ、一つの部屋の中で共同生活をしているのだから。

それに、本当のルームシェアみたいに、ルームメイトが気に入らないからって引っ越しをすることも出来ないんだから。

お互いに気持ち良く生活が出来るように、最低限の取り決めをして仲良くやっていこう。

特に、自分の身体を痛めつけるのはやめて欲しいものだ。

ほたるが痛い思いをしたら、同じ身体を共有するふぁにまで、痛い思いをするのだから。

な?一緒に住んでる部屋を傷つけるようなものだよ。お互いにとって良くないから。それはやめよう。

そう頼みたかった。

その為には、まずほたると話をしなければならなかった。

だからふぁには、必死にほたるに話しかけた。

「ほたる…。…ほたる、起きてくれ…」

…返事をしてくれよ。ほたる。

…しかし。

「…」

ほたるは、一向に姿を現さなかった。

深く、深く眠り続けていた。

…駄目だ。

自分の声…全然、ほたるに届いてない。

いくら呼んでも、叫んでも…ほたるは死んだように眠るだけ。

「…」

…実際、ほたるは死んだようなものなのだ。

歩道橋から落っこちた…って、言ってたな。

そんなはずがないってこと、少し考えれば分かることだった。

何で誰も分からないんだ。何で誰も、気づいてくれないのだ。

妹尾ほたるは、うっかり足を滑らせて歩道橋から落っこちたんじゃない。

自ら、歩道橋の柵を越えて、身を投げたのだ。

…何の為に?

…決まってるだろう。死ぬ為だ。

自分の命を、自らの手で終わらせる為だ。

何でそんなことをしたんだよ。なぁ?

…決まってるだろう。生きていたくなかったからだ。

生きてることが辛くて、苦しくて、耐えられなくなって。

この世から消えてしまいたくて、自ら命を絶とうとした。

自殺だ。

妹尾ほたるは、自殺したのだ。