神に選ばれなかった者達 前編

翌日、目が覚めた時。

相変わらず、ふぁには物置の中で、窮屈そうな格好で蹲っていた。

「…あぁ…。…いってぇ…」

こんな姿勢で寝てたら、ただでさえ全身筋肉痛になりそうなものを。

挙げ句、昨日歩道橋から落っこちたせいで、全身痣だらけなのだ。

これじゃ、いつまで経っても治るものも治らないな…。

…でも。

「…」

…仕方ない。この家じゃ、妹尾ほたるは、ずっとそういう扱いだった。

だから、ほたるの別人格であるふぁにも…ほたると同じ扱いを受けているのだ。

…ようやく理解した。自分の正体を。

そして、自分の役目も。

この傷だらけの身体は、ほたるのものなのだ。

中身はふぁにだけど、この身体は、元々妹尾ほたるのものだった。

さっきからずーっと、妹尾家の人々に冷たくあしらわれて、おかしいなーおかしいなーと思っていたけど。

あれは、家族の誰もが、ふぁにのことをほたるだと勘違いしていたからだ。

…いや、家族相手に冷たくあしらうのもおかしな話だけどな。

ふぁにのことを、ほたるだって思って接していたから。

だけどあくまで、あの家族は妹尾ほたるの家族だ。

ふぁににとって、あの人達は他人に過ぎない。

ふぁにはずーっと、ほたるの中にいた。

ほたる自身、自分の中に別人格が存在していることは気づいていなかった。

ふぁに自身、自分がほたるの別人格だということを自覚していなかった。

お互いに、お互いの存在を把握していなかった。

不思議な話があるもんだ。

同じ、一つの身体を共有している、いわばルームメイトみたいな存在なのに。

お互いに、お互いの存在を知らずに生きていたなんて。

ふぁにはずっと、ほたるの身体の中に存在していた。

だけど今日に至るまで、ふぁにがこの身体の主導権を握ることはなかった。

外に出てくることは、一度もなかった。

だからこそ、ほたるも、ふぁにの存在に気づかなかったのだろう。

だけど…今は、違う。

ほたるの人格は、今やこの身体の中の何処かに消えてしまった。

ほたる自身が、自分の身体の主導権を放棄してしまったのだ。

だから、ほたるが眠りにつき、代わりにふぁにが、意識の表層に押し出された。

その為…ふぁには、生まれて初めて、この身体の主導権を握ることになったのだ。

だけど、そんなほたるとふぁにのルームシェア事情を、周囲の人間は知らない。

見た目はまったく変わっていないが、ほたるとふぁには別人だ。

ただ、身体を共有しているだけで…まったく別の人格、つまりは他人。

長年の友達であり、共に育った兄弟であり…。

…だけど、まったく別の意志、別の考えを持った別人だ。

双子の兄弟みたいなものだ。

見た目は同じだし、生まれた歳も時間も性別も同じ。

でも、別の人間。

そうだろう?

さっき、謎のイケメンに説明されるまで、ふぁにはほたるのことを、思い出しさえしなかったのだから。