神に選ばれなかった者達 前編

…嘘、だろ?

ふぁには…ふぁにのはずだ。

ふぁにには、ふぁに以外の記憶なんてない。

それなのに彼は、ふぁにのことを「妹尾ほたる」だと言った。

誰なんだよ…。妹尾ほたるって。

知らない名前…知らない人、のはずなのに。

何故かその名前は、他人のようには思えなかった。

「…妹尾…ほたる…」

ふぁには、その名前を再び呟いた。

「妹尾ほたる…。…妹尾ほたる…」

更に、何度も連呼する。

…やっぱり、知ってる。

頭の中に、こう…刻み込まれたような…大事な….。

ほたるの名前は知ってる。…でも、ふぁにはほたるじゃない。

それは、それだけは確かだ。

それなのに、あの坊主はふぁにのことを、ほたるだと言った。

…何で?ふぁには、ふぁにのはずだ。

頭の中で、非常に複雑な回路が繋がりそうで、繋がらなくて。

何とも嫌な気分になっているところに、ふと手元に視線を落とした。

…そうだ。さっき、件の坊主に、薄汚れた器を受け取ったんだった。

何なんだろうと思って、見てみると。

それは、食べ物だった。

あろうことか、犬用の餌入れに、ひとかたまりの白米が入れてあって。

その上に、冷めた味噌汁がぶっかけてある。

…何これ?ねこまんま?

申し訳程度に、野菜の煮物の切れっ端が添えてあった。

で、そこにスプーンが一本、電信柱のように突き立ててあった。

…これを食べろと?そういうこと?

分かる分かる、たまにねこまんま、無性に食べたくなる時あるよな。

休日のお昼ご飯とか、軽く済ませたい時にさ。

冷蔵庫の中の冷やご飯に、余った味噌汁と残り物を添えて。

ねこまんまとは言うけど、人間が食べても充分美味しい…。

…って、そういう問題じゃねーんだよ。

そういうことが言いたいんじゃねーんだわ。分かる?分かるだろうかこの気持ち。

この世に生まれ落ちて、人生で最初に食べた料理がねこまんまって。

そんな人いる?普通。

多分あんまりいねーと思うぞ。

どういうことなんだ?何でふぁににねこまんま…?

別にねこまんまが悪いんじゃなくて、状況を説明してくれない周囲の人間が悪い。

「…はー…」

…さっぱり事情、分からないんだけどさ。

とりあえず、食べてから考えるってことで。