神に選ばれなかった者達 前編

まったく見覚えのない学生鞄だが。

ぐっしょり濡れたそれを、ふぁにはそっと触ってみた。

見知らぬ鞄を勝手に漁るのって、結構抵抗あるんだけど…。

何故か、これはふぁにが見なきゃいけないような気がして…。

鞄のチャックは開けっ放しだった。

よく見たら、チャックがバカになっていて、閉まらない。

長時間雨ざらしになっていたようで、鞄の中までぐっしょりだ。

「うわぁ…」

これは酷い。

鞄の中身まで、ぐっちょりだよ。

中に入っていたのは、教科書とノート、それから文房具の類。

どれもこれも濡れて、ノートも教科書よページがよれよれ。

嘘だろ、これ。

どうすりゃ良いんだっけ?ドライヤーで乾かす?それともアイロンをかけたら良いんだっけ?

いや、ここまでぐっちゃぐちゃになってたら、もう修復不可能なんじゃないの?

二本の指で摘まむようにして、ノートを鞄から取り出す。

ノートの名前欄に、名前が書いてあった。

雨に濡れたせいで、インクが滲んでいるが。

そこには確かに、「妹尾ほたる」と書いてあった。

「妹尾…ほたる…」

ふぁには、その名前を呟いた。

…聞いたことのない名前だ。

ついさっき生まれたばかりなんだから、聞き覚えがあるはずがないのだが。

妹尾、って名字…。

ってことは、この家の子供なんだよな?

さっきリビングで見た、図工や書道の作品に書いてあった名前を思い出す。

…ほたるなんて名前は、一つも見なかったはずだが?

あれ?

妹尾家の兄弟、四人兄弟だと思ってたけど。

それじゃ、このほたるって子を合わせると、五人兄弟?

…多っ。

今時、兄弟が五人もいるとは珍しい。

成程、家の中が妙にぐちゃぐちゃしてる訳だな。

子供が五人もいたら、そりゃいくら気をつけてても、散らかるのは当然というものだ。

ふーん…。ほたる君…ほたる君ねぇ。

…誰?

聞き覚えはないのに、妙にしっくり来ると言うか…。

馴染みのある名前、って気がした。

…で、そのほたる君の学生鞄が、何で押し入れなんかに放り込んであるの?

押し入れの中には他にも、ボロボロの型遅れのガラケーと。

それから、薄汚れたうすっぺらい毛布も置いてあった。

…押し入れの癖に、妙に生活感のある空間だ。

何なの?ほたる君って子は、この押し入れに住んでたのか?

嘘だろ?押し入れに済むなんて…。何処の機械猫だよ。

分かる分かる。兄弟が多いと、プライバシーを確保出来るスペースがないもんな。

一人になりたい時とか、つい押し入れに引きこもったりするよね。

…って、そんなことあるかよ。

誰が好き好んで、こんな狭苦しいスペースで生活するんだ。

多分ほたる君は、無理矢理ここに住むように、押し入れに押し込められたのだろう。

…でも、何でそんな酷いことするんだ…?