神に選ばれなかった者達 前編

「響也兄ちゃん…。…大丈夫?」

本当に心配そうな顔で、眞沙はそう尋ねた。

「…」

大丈夫だと言ってやりたかったけど、とてもじゃないがそんなことは言えなかった。

大体、俺が大丈夫じゃないことは、素人目から見ても分かるはずだ。

眠りたくないが為に、俺は無理矢理起きていようと、毎晩限界まで耐えていた。

コーヒーとか、眠気を覚ます栄養ドリンクを飲んだりして。

しかし、人間、どんなに頑張っても、まったく寝ないということは出来ない。

いずれ眠気と疲労が限界を迎えて、倒れるように寝てしまう。

そして、また同じ悪夢を繰り返すのだ。

睡眠が、こんなにも辛く、恐ろしいものだとは知らなかった。

そんな酷い睡眠生活をしている為に、俺の顔色は酷く悪くなっていた。

目の下にはどす黒いクマが出来ているし、ろくにものを食べていないせいで、老人のようにやつれ果てて見えることだろう。

誰がどう見ても、大丈夫ではない。

「響也兄ちゃん…。今日も学校、行かなかったんだよな…?」

「…」

行けるはずがない。こんな状態で。

ましてや、あの教室は…毎晩、俺がゾンビに襲われている場所。

教室に入るや否や、悪夢を思い出してしまうことは間違いなかった。

とてもじゃないが、今の俺には耐えられそうにない。

「…一体どうしたんだよ?風邪…引いたのかと思ってたけど、そうじゃないみたいだし…」

「…あぁ…」

俺は、ようやくひび割れた声で返事をした。

我ながら、老人のような声だ。

風邪…だったら、話は早かったんだけどな。

風邪薬を飲んで、数日大人しくしていれば治る。

だけど、悪夢の治し方なんて、どうすれば良いんだ?

「具合悪いんだったら、病院に…」

「…」

「…何があったんだ?やっぱり…学校で何か…」

と、眞沙は戸惑い気味に尋ねた。

ある意味で、眞沙の質問は間違ってない。

確かに、学校での出来事が原因だ。

ただし、それは夢の中での話だが。

「響也兄ちゃん…。その…誰かに嫌がらせされたり、嫌なこと言われたりしてるのか?」

…はっきり言ってくれて良いんだぞ。眞沙。

学校で、クラスメイトにいじめられてるんじゃないか、って。

確かにそれは事実だが、でもそれが原因ではない…。

…いや、もしかしてそれが原因なのか?

自分では気にしていないつもりだったけど。

もしかして、毎日雨野リリカやクラスメイトから受ける嫌がらせが辛くて。

心の中では限界を迎えていて、それで悪夢を見るようになってしまったのか?

…分からない。

「それとも…。…その…響也兄ちゃんの、母さんのこと?」

「っ…」

「あ、ごめん…」

他のことを聞かれても、無反応だった俺が。

母親のことを聞かれるなり、思わず反応したものだから。

失言だったとばかりに、眞沙は謝った。

…違う。

「…それは、関係ない…」

「そ…そうなのか」

そうだ。関係ない。

母のことは…もう、何も…。

ましてや、母が俺の悪夢の原因だなんて…そんなこと、もうあるはずがない。