神に選ばれなかった者達 前編

良かった、間に合った。

この身体じゃもう、私は多分逃げられないけれど。

お兄ちゃんの傷は治したから。お兄ちゃんだけなら、何とか逃げられるかもしれない…。

「ちっ…!あいつら、もうここを嗅ぎつけて…」

「…お兄ちゃん…逃げて…」

「…!のぞみ…!?」

病室の入り口にはベッドを押し付けて、何とか塞いでいるけれど。

鍵がかかっている訳でもなし、遠からず、開けられるだろう。

そうしたら、さっきの黒衣人間達が襲いかかってくる。

私が囮になれば、お兄ちゃんだけでも逃げられるかも…。

「駄目だよ、そんなこと…!のぞみを置いていけるはずがないだろう!」

「良いから…気にしないで…」

「無理、気にする!」

…気にしないでって言ってるのに…もう…。

お兄ちゃんは私を頑固だって言うけど、お兄ちゃんも大概だよね。

似た者兄妹だ。

「もうすぐ、夜明けなんだよ…。お兄ちゃんだけなら…何とか…」

「駄目だ。そんなことは関係無い。死ぬならのぞみと一緒に死ぬし、生きるならのぞみと一緒に生きる」

…やめてよ、もう。

それじゃ、私が命を張ってお兄ちゃんの傷を治した意味がないじゃない。

…しかし、お兄ちゃんは頑なだった。

「のぞみを置いてはいかないよ…。のぞみは、僕の希望なんだ。自分の命より大切な…何よりも大切な、生きる希望なんだから」

そう言って、お兄ちゃんはぎゅっと私を抱き締めた。

…お兄ちゃん…。

思わず、涙が零れそうになった。

…そんなこと、私に言わないで。

その言葉は私じゃなくて、本当の…、




…ついに。

「ロケアジコ!」

病室の外から、黒衣人間が叫ぶ声がして。

先程のピストルの発砲音、ヒュッ、という不気味な音が響いたかと思うと。

扉に、大きな風穴が開いた。

同時に、扉にビキビキと大きなヒビが入り、粉々に砕け散った。

やはりあのピストルには、対象物を内側から切り裂くような、そんな効果があるらしい。

「ゾタイ!」

黒衣人間達が、私とお兄ちゃんにピストルを向けた。

…あぁ…やっぱり、駄目なのか…。

「逃げて…お兄ちゃん…」

「いいや、逃げない。のぞみを置いては、何処にも」

お兄ちゃんは私を抱き締めて、きっ、と黒衣人間を見据えた。

彼らが、無情に引き金を引く…。



…その時。

目の前が、光に包まれた。