神に選ばれなかった者達 前編

窓ガラスが突き刺さると、凄まじい痛みが突き抜けた。

だけど、ここでやめる訳にはいかない。

じわじわと血が滲み、ブラウスが赤く染まり始めた。

これだけじゃ足りない。もっともっと。

ガラスを二の腕に突き刺したまま、私はギギギ、とガラスをナイフのように引いた。

二の腕から肘の下辺りまで、ガラスの破片で肉を切り裂いた。

「くっ…!うぅ…!」

あまりの痛みに、生理的な涙が滲んだ。

「もう良い…。やめてくれ、のぞみ…。もう良いから…!」

そんな私を見るのに耐え兼ねて、お兄ちゃんは必死にそう言った。

…致命傷を負っている自分の方が、ずっと辛くて、ずっと痛いはずなのに。

それに比べたら、私のこの傷が何だって言うんだ。

お兄ちゃんの痛みの、足元にも及ばない。

ガラスの破片は切れ味が悪く、痛みばかりが増すだけで、思った以上に出血が少ない。

私は破片を強く握り、ぐちゃぐちゃと腕の傷口を切り裂いた。

ようやく、ぼたぼたと血が溢れ出した。

…良かった。

私は、溢れ出したその血を、お兄ちゃんの背中の傷口に当てた。

私の血の滴が、お兄ちゃんの傷口に触れた途端。

お兄ちゃんの背中の傷口が、柔らかな光を放った。

そして、開いていた傷口が、徐々に塞がり始めた。

私の血の一滴が、お兄ちゃんの傷を癒やしていく。

致命傷で、あとは死ぬのを待つだけだったお兄ちゃんが。

みるみるうちに傷が癒え、塞がり、少しずつ治っていった。

現実では、こんなことは有り得ない。

でも、ここは夢の中だから。

有り得ないことでも、可能になるのだ。

これこそ、私の武器。

…というより、特殊能力、と言った方が正しいのかもしれない。