神に選ばれなかった者達 前編

二度あることは三度ある、と言う。

そして三度あることは、四度も五度もあるということだ。

それから俺は毎夜、同じ悪夢を見ることになった。

終わらない、永遠に続く悪夢を。

夜が来る度に、俺は死んだ。

何度も何度も、数え切れないくらい死んだ。

一晩に何度も。

だけど俺だって、みすみすやられっぱなしになっていた訳じゃない。

何とか脱出口を探そうと、ありとあらゆる方法を模索した。

ベランダから飛び降りる時に、怪我をしないよう体勢を工夫した。

でもこれは無意味で、3階から落ちた時点で、受け身を取ろうと何をしようと、骨折は不可避だった。

むしろ絶命するまでに時間がかかり過ぎて、苦しみが長引くばかりだった。

他にも、ベランダから非常用階段まで走って逃げる、という方法を試した。

でもこれも無駄で、どんなに俺が全力で走っても、ゾンビの方が遥かに俊敏で、速かった。

何でゾンビなのに、あんなに足が速いのか。

結局、非常用階段に辿り着く前に捕まって、頭からバリバリと食べられる羽目になった。

そうこうしているうちに、もう何をしても無駄だ、と思い始めた。

夜が来るのが怖くなって、外に出ることも出来なくなった。

というのも、昼間でも、おかしな現象が起き始めたからだ。

夜中に見る悪夢を引き摺っているのか、昼間でも、視界の端にノイズが走るみたいに、黒いモヤが映ったり。

会う人会う人、皆夜中に自分を襲うゾンビに見えたりした。

こうなってはもう、学校に行くことも出来なかった。

トカゲを埋めた例の日以来、俺は学校に行かなくなった。

それどころか、自分の部屋から出ることさえろくにしなくなった。

自分の身に何が起きているのか、さっぱり分からない。

どうして突然こんなことになってしまったのか。何故眠る度に、同じ悪夢を見るのか…。

ただ事じゃないとは分かっているが、どうしたら良いのかも分からなかった。

結果、俺は自分の部屋に閉じこもって、そこに籠城していた。

また今日も夜が来るのを、ひたすら恐れながら。

こんな絶望感を感じるのは、人生で二度目のことだった。







…俺の今の家族は、そんな俺の状態に無頓着だった。

本当の家族ではないのだから、無理もない。

俺が学校に行こうと行くまいと、どうでも良い。

そもそも、俺がどうして登校拒否しているのか、その理由についても知らなかった。

一度もその理由について聞かれたことはないし、俺も自分から口にすることはなかった。

多分、酷い風邪を引いているのだ、くらいにしか思ってないのだと思う。

ただ一人違うのは、眞沙だった。

学校に行かなくなってから、まるまる一週間ほど経った頃。

眞沙が、俺の部屋を訪ねてきた。

「響也兄ちゃん…。いる?ちょっと入っても良い?」

「…」

その時も、俺は返事が出来なかったが。

「…ごめん。ちょっと…入るよ」

俺が返事をしないものだから、眞沙は強引に、扉を開けて入ってきた。

扉から入ってくるものは全て、例のゾンビに見えて。

だけどそれは、紛れもなく生身の…心配そうな顔をした、従兄弟の眞沙だった。