神に選ばれなかった者達 前編

部屋の中には、異常は見られない。

どうやら、私とお兄ちゃんが隠れていることには気づかれていないようだ。

…それは一安心だけど。

全員同じ格好をしているから、あの黒衣人間達が、さっき分娩室にいたのと同一人物なのかは分からない。

この人達、みんな同じ格好をして、目だけ出して。

名札をつけている訳でもないのに。お互いの判別がつくのだろうか。

ズタ袋を手にした黒衣人間が、部屋の中に入ってくるなり。
 
ベビーサークルの子供達が、一様にがばっと顔を上げた。

それはまるで、飼育員が餌を持って檻に入ってくるのに気づいた動物のようだった。

…いや、実際その通りだったのだ。

ズタ袋に入っていたのは、ビスケットを細かく砕いたようなもの。

黒衣人間はズタ袋に手を突っ込み、その固形ビスケットをベビーサークルの中に撒いた。

金魚に餌をやるのに似ていた。

黒衣人間が餌を撒くと、それに反応して、子供達が一斉に駆け寄り。

我先にと、ビスケットを取り合っていた。

それは、生物としての本能を剥き出しにした、醜い生存競争だった。

子供達に、互いに餌を分け合うという考えは一切存在していなかった。

少しでも多くの餌を、周りの子より多く奪い取る。

その為に、周りの子を踏みつけ、押し退け、その手から手へと、砕いたビスケットを奪い合っていた。

あの子達に充分な食糧が与えられているなら、あんな残酷な光景は生まれないはずだった。

だけど。

黒衣人間は、ベビーサークルの中に2回、3回ほど餌を撒いただけだった。

…もう、終わりなの?

当然、それだけで足りるはずがなかった。

子供達は、与えられた僅かな餌を必死に奪い合った。

たったあれだけしか餌を与えられないなら、当然のことだった。

踏みつけにされた子供は、結局一口も餌を口にすること無く、力尽きたかのようにその場に崩れ落ちた。

中には、そのような競争に加わる気力もなく、虚ろな目をして横たわっている子もいた。

遠からず、あの子は死ぬだろう。

食べ物を得られなかった子は、みんな…。

そして。

他の子を押し退け、地面に落ちた餌のくずを舐めてまで食べ物を得た子だけが、必死にもぐもぐと口を動かしていた。

でも、それはあの子が卑怯なのではない。

あの子はただ、生き延びただけだ。

何としても、どんな手段を使ってでも、己の中にある強烈な生存本能に従っただけだ。

あの子は生き残るだろう。他人を踏みつけにしてまで、餌を奪い取ったのだから。

…それは残酷な生存競争。

残酷な…蠱毒の壺のようなもの。

子供達の中でも、生まれながらに強い子だけが生き残る。

まるで…スラム街で生まれた私達が、幼い頃経験した社会の縮図のようだった。