神に選ばれなかった者達 前編

…一体何なの。あの赤ん坊は。

人間じゃないことはよく分かる。けど…。

「イナハウヨウモ」

「ネンセマイマカテシンブョシ」

「ダンロム」

黒衣人間達は、何か分からない言葉を呟き。

何処からか、動物にでも使うような巨大な注射器を持ってきた。

注射器の中には、真っ赤な液体が並々と入っていた。

な…何あれ?

そして、その注射器の針を、赤ん坊に突き立てた。

本当に突き立てたのだ。刺したのではない。

釘を思いっきり打ち付けるように、注射器の針をグサッと突き立てた。

そうでもしないと、赤ん坊の分厚い皮膚を通さないのだ。

きっと、その注射は凄まじい痛みだったのだろう。

産声さえあげなかった赤ん坊は、注射器を突き立てられた瞬間、身体をびくんと震わせた。

しかし、黒衣人間は容赦なく、その薬液を赤ん坊の中に注入した。

「…ァボァボァボァボ」

赤ん坊は、ミミズみたいにぐねぐねと身をくねらせ。

意味不明な奇声をあげながら、全身をばたつかせた。

生まれてから、最初で最後の抵抗だった。

…しかし、既に注射器は空っぽで、薬液はすべて注入されていた。

恐らく、あの薬液は毒だったのだろう。

赤ん坊の全身が、ボコッ、ボコッと膨らんではへこみ、膨らんではへこみを繰り返し。

最後に、不気味な一つ目がぎゅるんっ、と裏返って。

…そのまま、動かなくなった。

…。

…死んだ、の?

信じられない思いだった。

今、私の目の前で…命が生まれて、そして終わった。

結局、母親も…その赤ん坊も…両方…。

しかも、今のは…死んだのではない。殺されたのだ。

ここにいる…黒衣人間達の手によって。

なんてことを…。

殺された妊婦さんは、丁重に葬られるようなこともなく。

土嚢袋みたいな大きな袋を持ってきて、その中に押し込んだ。

赤ん坊なんてもっと酷くて、しなびた死体を黒いビニール袋に投げ込んで、それでおしまいだった。

黒衣人間達は、分娩台の片付けを始めた。

「…のぞみ、離れよう」

お兄ちゃんが、私の耳元に囁いた。

「…うん」

これ以上、見ているべきものは何もなかった。

この世界のバケモノが何なのかも、はっきりと分かった。