神に選ばれなかった者達 前編

私が固まっていると、キッチン鋏を渡された黒衣人間が。

叫び続ける妊婦さんのお腹に…。

「…!!」

その瞬間を、私は見なかった。

咄嗟に、お兄ちゃんが私の両目を塞いでくれたからだ。

でも、音だけは聞こえてきた。

肉を引き裂く、生々しい音だけは。

そして。

「ァァァァァラィィィギ!!」

凄まじい痛みに、妊婦さんは断末魔の叫びをあげていた。

必死に身を捩って逃げようとするのを、黒衣人間達が無理矢理押さえつける。

ジョキ、ジョキ、とハサミを動かす音がした。

急速に、妊婦さんの叫び声が小さくなっていく。

…なんて、酷いことを。

いくら…いくらお腹の赤ちゃんを助ける為とはいえ。

あ、あろうことか…ハサミで、妊婦さんのお腹を切り裂くなんて…。

…そんなことをしてまで…。

…やがて、妊婦さんの声は聞こえなくなった。

代わりに。

妊婦さんの裂けたお腹の中に、黒衣人間達が手を突っ込み。

ぶちぶちと血管をちぎって、お腹の中にいる「何か」を引っ張り出した。

一体何つ子がいるのか、と思っていたが。

お腹の中にいた赤ん坊は、一人だけだった。

でも、それは果たして赤ん坊と言えるんだろうか。

お腹から取り出されたのは、ドス黒い肉の塊だった。

そうとしか言えない。

とてもじゃないが、人間の赤ん坊じゃない。

生まれたばかりなのに、その大きさは既に、幼稚園児くらいの身長はあった。

人の形をしているけれど、顔にも背中にも腕にもお腹にも、身体中の至る所に、コブみたいな黒い突起があって。

皮膚は鱗みたいに剥がれ落ち、肉があらわになっている。

それから、更に不気味なのは足。

右足は、ゾウの足みたいに異常に膨らんでいるのに。

左足はしぼんで、干からびたキノコみたいに小さい。

そして、そんな奇形の足よりも気味が悪いのは。

赤ん坊の、異様に大きな顔。

ドス黒い顔には、目が一つしかついていなかった。

ギョロギョロとした目玉が、眉間の間に一つだけ。

鼻は落ち窪んでただの穴になっていて、耳の形はよく見えないが…こちらも変形しているようだった。

口は、まるでナイフで切れ目を入れたみたいに、耳元まで裂けており。

生まれたばかりだと言うのに、獣みたいな牙が何本も覗いていた。

申し訳足らずの頭髪が、産毛みたいに僅かに生えていた。

母親の腹から取り出されたの異形の赤ん坊が、産声を上げることはなかった。

その赤ん坊を前に、病院スタッフである黒衣人間達は。

悲鳴を上げることもなく、それどころか憎々しげに、その赤ん坊を睨みつけた。

「ダイパッシ」

…折角、母親を犠牲にしてまで赤ん坊が生まれたのに。

そこには、祝福の気配は一切見られなかった。