神に選ばれなかった者達 前編

お兄ちゃんの言う通りだ。

この部屋の中にいるのは…人間じゃない。バケモノだ。

その妊婦さんのお腹は、不自然なほどに膨らんでいた。

妊婦なんだから、お腹が膨らんでいるのは当然だと思うだろう。

…確かに当然だけど。

でも、それは普通じゃなかった。
 
現実の普通の妊婦さんが「ぽこん」だったら、そのバケモノは「ボコッ」だった。

一体何人の子供が、そのお腹の中にいるのか。

通常の妊婦さんの、三倍も四倍も大きなお腹。

…三つ子?それとも四つ子?五つ子?

あるいは、赤ちゃんじゃなくて、もう四、五歳の子供がお腹の中に入ってるみたいに見える。

妊婦さんのお腹は、はち切れそうになっている。

一体何が、あの中にいるの?

妊婦さんは顔を真っ赤に…どころか、真っ青にして。

断末魔のような叫び声をあげ続けていた。

「ゥゥゥァァァァルレワ!!ゥゥァアァァァァィィギ!!」

妊婦さんの苦しみは、現実の普通の妊婦さんのそれとは比べ物にならないように見えた。

…これって、本当に出産なの?

新しい命が生まれる感動なんて、何処にもない。

今にも死にそうな人を、皆で取り囲んで手術しようとしているようにしか見えない。

…それに、よく見たら。

妊婦さんを取り囲んでいる、お医者さん達。

妊婦さんのインパクトの方が強過ぎて、見逃していたが。

このお医者さん達も、どう見ても普通ではなかった。

病院のスタッフって言ったら、大抵は白い服とか、青い服を着てるよね?

この人達は違う。

皆、黒い服を着ている。

顔をすっぽりと覆い隠し、両目だけがあらわになっているり

何なら、両手につけているゴム手袋さえも黒い。

分娩台に敷かれているシーツまで黒かった。

シーツが黒いお陰で、目立たないだけで。

妊婦さんは、既に大量の出血をしていた。

そのせいだろう。妊婦さんの目は、もう虚ろになっていた。

段々と、叫ぶ声も掠れて、小さくなっていく。

…これって、大丈夫なの?

…素人目にも分かる。この出産は異常だ。

「…ァァァヌシゥゥゥァルレワ!」

「スマイテッマワヨニラサンオンシ!」

「セタワヲシンカ!」

「ダンスダリトケダミカナイイモデウドハイタボ!」

周囲を取り囲んでいる黒衣人間達が、唾を飛ばし合いながら何か叫んでいる。

でも、何を言ってるのか分からない。

切迫した様子だけは、よく伝わってくる。

ついに、助手らしき黒衣人間が。

巨大な、キッチン鋏のようなものを持ってきた。

…な、何なの?あれは。