神に選ばれなかった者達 前編

私はお兄ちゃんと共に、ストレッチャーが運び込まれた場所を目指した。

悲鳴の聞こえる方に向かって、歩みを進める。

…すると。

「ァァァァァギ!!ァァァバァァァァギ!!」

…また聞こえる。あの不気味な悲鳴。

辿り着いたのは、このフロアの中でもひときわ大きな病室だった。

病室には、鍵がかかっていなかった。

お兄ちゃんが、そっとこちらに目配せした。

私が頷き返すと、お兄ちゃんはほんの僅かに、その病室の扉を開けた。

僅かな隙間から、部屋の中の様子が見えた。

何を見ても声を出さないように、自らの口を両手で塞いでいたのは大正解だった。 

部屋の中を見るなり、私は悲鳴をあげそうになった。

…その部屋は、あろうことか分娩室だった。

部屋の中では、出産の真っ最中だった。

さっき悲鳴を上げながら運ばれていったあの人は、妊婦さんだったんだ。

産気づいた妊婦さんが、この分娩室に運ばれてきたんだ。

部屋の中には大きなベッドが置いてあって、そこに横たわった妊婦さんが、必死の形相でいきんでいるところだった。

…他人の出産シーンなんて、生まれて初めて見た。

…いや、あんまり、なかなか人様にお見せするようなものじゃないと思うけど。

おめでたいことなんだけど。でも見世物じゃない。断じて。

正直、あまりナマで目撃するものではなかった。

ごめんなさい。他人に出産シーンを見られるなんて嫌だよね。

でも、もう見ちゃったから引き返せない。

私は内心、動揺して心臓ばくばくだったけど。

隣にいるお兄ちゃんは、冷静そのもの。

見習いたい。

「ここ…病院なの?産科病院…?」

私は、小声でお兄ちゃんに尋ねた。

病院だということには気づいていたけど、子供を生む為の病院だったなんて。

前回のゾンビの時は、ゾンビの姿を見てすぐ、これが倒すべきバケモノだとすぐに分かった。

でも、今回は…。

まるで、現実の…普通の産婦人科病院みたいな…。

今回、私達は一体何を倒せば良いのか。

「バケモノは何処にいるの…?」

「…そこだよ」

え?

お兄ちゃんは、分娩室の中を指差した。

そこ、って…。

…あの、子供を生んでる妊婦さんのこと?

「でも、ここ…普通の病院みたいな…」

「普通じゃないよ。よく見て、のぞみ。…あれは人間じゃない」

「え…?」

分娩室の中を、改めて見直す。

あんまり凝視しちゃいけないと思って、じっくりとは見なかったけど。

改めて私は、その妊婦さんを見つめ。

そしてすぐに、お兄ちゃんが言わんとすることが分かった。