神に選ばれなかった者達 前編

…ようやく、ストレッチャーを運ぶ音が遠ざかってから。

お兄ちゃんは、そっと病室の扉を開けた。

顔を覗かせ、安全を確認する。

異様な何かを乗せたストレッチャーを、黒い服を着た何人もの人間(?)が、急いで運ぶ後ろ姿が見えた。

あ…あれは一体何なの…?

あれが、この世界のバケモノ?

私達が倒すべき敵なの?

分からない。凄い勢いで通り過ぎちゃった。

「お、お兄ちゃん…。あれ、何…?」

「…分からない」

だ、だよね。

「あれが…バケモノなのかな…」

「…その可能性はあるね。…もう少し情報が欲しい」

そう言って、お兄ちゃんは病室から出た。

「お、お兄ちゃん?」

「ちょっと、追いかけて見てくる。のぞみはそこに、」

「嫌!一緒に行く」

「…」

そこに隠れてて、って言おうとしたでしょ。今。

そうは行かないから。

「足手まといなのは分かってるよ」

「そんなことは思ってない。ただ、何があるか分からなくて危ないから、のぞみには隠れてて欲しいんだよ」

そうだよね。

でも、それはお兄ちゃんだって同じことだから。

「ここだって、安全な訳じゃないよ。いつバケモノが来るか分からない」

「それは…そうだけど…」

この夢の世界にいる限り、絶対に安全な場所なんて存在しないのだ。

だったら、お兄ちゃんの隣にいる方が良い。

多分、そこが一番安全な場所だ。

こんな不気味な場所に置いていかれるのは嫌だし、何より…。

「お兄ちゃんだけを危険な目には遭わせないよ。危険を犯すなら、二人一緒じゃないと」

「…のぞみ…」

「一緒に行く」

それに、もし私が一緒にいれば。

お兄ちゃんが怪我した時、手助けしてあげられるかもしれない。

その為にも、私は絶対、お兄ちゃんの傍から離れない。

お兄ちゃんにだけ、危険な思いはさせられない。
 
これだけは譲らないからね。

「…やれやれ、普段は素直な良い子だけど、こういう時は頑固なんだから…」

「頑固で悪かったわね」

「大丈夫だよ、怒ってる訳じゃないから…。…じゃあ、一緒に行こう。お兄ちゃんの傍から離れないでね」

「うん」

私は、自信を持って頷いた。

夢の中で見かけたバケモノの後を追いかけるなんて、自ら危険に飛び込もうとしているようなものなのに。

お兄ちゃんが一緒となると、途端に自信が出るのだから不思議だ。